◇深刻さ増す公立病院 明確な打開策なく
カーテンが開け放たれた病室の窓から、明るい午後の日差しが空っぽのベッドに差し込む。北杜市長坂町大八田の市立甲陽病院(126床)。地域医療の中核を担う同病院から今、入院患者の姿が減っている。医師不足のため、受け入れを控えているからだ。
1人いた内科の常勤医が09年12月に退職、それ以来、補充できていない。現在、病院全体の常勤医は外科3人、整形外科1人、眼科1人の計5人。「内科の入院希望があっても、断らざるをえない」。浅川正人事務長は苦渋の表情で説明する。
病床利用率は、70%が病院運営上健全とされる。内科医の退職前の09年8月は80%を超えていたが、退職が決まってから、内科の入院患者は順次転院してもらった。今月23日現在で64?65%だ。
現在の内科の入院患者数は約10人。高齢者が多く、内科の常勤医がいないことを承知で、「地元で診てほしい」と希望する人たちだ。内科ではない常勤医5人が、非常勤医師の助けを借りながらフォローしている。午前中は外来勤務、午後は入院患者を回り、当直は月4?5回。医師たちの負担は大きい。
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全国的に顕在化する医師不足問題。県内でも公立病院を中心に深刻さを増している。国や県の統計によると、甲陽病院がある峡北地域の人口10万人当たりの医師数は113?4人(06年)。県平均の192?6人を大きく下回り、全国平均(206?3人)の約半分だ。
背景には、04年度に導入された臨床研修制度があるとされる。新人の医師が自由に研修先を選べるため、研修希望先が都市部の大病院に集中。この結果、へき地の公立病院などに医師を派遣する機能を担ってきた地方の大学病院まで人員不足に悩むようになった。
山梨大医学部付属病院でもこの間、各地に派遣していた医師を相次いで引き揚げさせた。甲陽病院は内科医の退職後、同大病院に何度も医師派遣を頼んでいるが、望みは薄い。
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医師確保に向け、県は07年度から、卒業後に県内の医療機関に一定期間勤務することを条件に、医学生に奨学金を出す制度を開始。医師を県職員として採用しへき地などに派遣する「ドクタープール制」も導入している。
今回の知事選でも、横内正明、大久保令子の現新両候補はこれらの制度の継続を掲げ、「医師の確保、定着に取り組む」と強調する。ただ、奨学金を受けている学生のほとんどがまだ在学中で、実際にどれだけの定着効果があるかは数年先まで見えない。ドクタープール制にいたっては、まだ一件も県に応募がない。
「これ以上医者が減って、ここで診てもらえなくなったら困る。一日でも早く内科の先生が来てくれたら……」。甲陽病院に肺炎で入院中の父親(94)を見舞った男性(64)はつぶやいた。県民の命をつなぐ地域医療。医師不足解消へ、明確な打開策は見つかっていない。【曹美河】=おわり
1月28日朝刊
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引用元:Perfect World rmt
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